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青葉茂れる桜井の 里のわたりの夕まぐれ
木の下陰に駒とめて 世の行く末をつくづくと
忍ぶ鎧の袖の上に 散るは涙かはた露か
正成涙を打ち払い 我が子正行呼び寄せて
父は兵庫に赴かん 彼方の浦にて討ち死にせん
汝はここまで来つれども とくとく帰れ故郷へ
父上いかにのたもうも 見捨てまつりてわれ一人
いかで帰らん帰られん この正行は年こそは
未だ若けれ諸ともに 御供仕えん死出の旅
汝をここより帰さんは 我が私の為ならず
おのれ討死為さんには 世は尊氏の儘ならん
早く生い立ち大君 仕えまつれよ国の為
この一刀は住いにし年 君の賜いしものなるぞ
この世の別れの形見にと 汝いましにこれを贈りてん
行けよ正行故郷へ 老いたる母の待ちまさん
共に見送り見返りて 別れを惜しむ折からに
またも降りくる五月雨の 大空に聞こゆる時鳥
誰か哀れと聞かざらん あわれ血に泣くその声を
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